会報誌・読みもの

小林先生の写真ノート <Vol.31>

ひとつの作品を完成するためには、けっして短くない時間が必要だ。同時に、その作品をどこで完結とするのかもまた重要な課題だ。作品制作は基本的に個人活動だからこそ、自ら「はい、ここまで」と区切りをつける、あるいは場合により諦める場面、その決断が必要になる。

「Cyber Modernity」という作品を昨年、ニコンサロンで写真展のかたちで発表させていただいた。ありがたいことに、その後、賞(伊奈信男賞)もいただいたのだが、正直なところ、自分の中ではまだ終わっていない。中途半端だとずっと思ってきた。それは、インドネシアのジャカルタを撮影したところで完結だと、ずっと以前から考えていたからだ。


一昨年の夏(2024)、本当はジャカルタの撮影を計画していた。それをもって完結としたかった。ただ、諸事情からその渡航、撮影を諦めたという経緯がある。
だからジャカルタの写真が含まれていないことに、ずっと引っ掛かりを感じていた。
さらにコロナ禍に撮影した東京の写真も「Cyber Modernity」のシリーズに加えることを検討したのだが、かなり迷った末に結局加えなかった。いまでもそれを加えるべきかと逡巡している。

コロナ渦、海外に行けなかったので、東京、隅田川周辺で夜景を多く撮った。
ほとんど未発表。それを写真集に加えるかをいまだに考え中。

最近、「Cyber Modernity」の写真集の出版がきまった。出版業界が厳しいといわれて久しいが、そんな状況のなかで出していただける出版社が現れたことを、とてもありがたく思っている(来年の5月くらいの発刊予定)。これをひとつの契機として、この秋、ジャカルタに撮影にいく計画を再度立てた。

この夏から写真集の構成を練り始めた。デザイナーさんも決まった。私の制作方法は、まず候補となる写真をできる限り多くプリントアウトして、それを並べてみる。あるいはトランプのように切ってみる。いたってアナログだ。ただ、この方法が一番しっくりくる。その作業を始めた。

そもそもこのシリーズの撮影を始めたのは2019年の夏。上海に曖昧でぼんやりとしたコンセプトだけを頭に描いて行ったのが始まりだ。まずは撮ってから考えるというのが私の流儀。あれから7年。そのあいだにコロナ禍があって3年間、停滞していた。あの3年間がなかったら、作品はどんな方向へ進み、変化していただろうか。想像もつかない。

7年という時間がひとつの作品を作る上で、長いのか短いのかは自分では判断がつかない。ただ恐ろしく長いということでもないだろう。もっと続けていたい気持ちも正直ある。まだ撮れそうな予感がある。ということは結果的に強度があるテーマだったといえるのかもしれない。ただ、このジャカルタの撮影、写真集の発刊をもって、完結とすることにした。

30回ほどに渡り、つらつらと思いつくまま、まとまりもなく書いてきましたが、この連載も今回で最後となります。ご愛読いただき誠にありがとうございました。


ご自身の写真のルーツについて、写真という表現について、深い視点で連載いただいた「小林先生の撮影ノート」ですが、今回で最終回となります。これまでご愛読いただきありがとうございました。過去の記事はこれまで通りご覧いただけますので、どうぞお楽しみください。

ニッコールクラブ事務局