会場:ニコンプラザ東京 THE GALLERY
会期:2026年8月4日(火)~2026年8月20日(木)
日曜休館、8月11日(火)~8月16日(日)休館
10:30~18:30(最終日は15:00まで)
山之内さんが2014年から2025年まで、約12年間にわたり撮影してきた、きのこの作品が展示されます。 今回の写真展に込めた思いや、作品テーマの変化、撮影やプリントへのこだわり、写真展を目指す方へのメッセージについて伺いました。
今回の写真展「林床の鼓動」は、どのような作品展ですか。 |
梅雨の時期から秋にかけて森を歩いていると、さまざまなきのこに出会います。
きのこは小さくて可愛らしく、表情もとても豊かです。じっと見ていると、まるで森の妖精のようで、おとぎ話の世界に引き込まれるような感覚になります。
1人で立っているきのこからは、生きようとする強い意志を感じますし、大小のきのこが集まっている姿は、家族のようにも見えます。木の穴の中に生えているきのこは、誰かに見つからないように、ひっそりと隠れているようにも感じられます。
今回の写真展では、そうしたファンタジックな世界と、森の生態系の中で重要な役割を果たしている生物としてのきのこの姿を重ね合わせて表現しました。

きのこを撮り始めた当初から、現在のテーマを考えていたのでしょうか。 |
撮り始めた頃は、現在のような生態系の視点は、あまり意識していませんでした。
当初は、小さくて可愛らしいきのこを「森の妖精」として捉え、おとぎ話のような幻想的な世界を表現したいと思っていました。
ところが、長年撮りためてきた写真を改めて見返してみると、可愛らしさや美しさだけでは、少し表面的ではないかと感じるようになりました。
写真展として作品をまとめるのであれば、もう少し深みのあるテーマにしたいと思ったのです。

そこから、どのようにテーマを深めていったのでしょうか。 |
きのこのことを、改めて本や映像などで勉強しました。
私たちが普段見ている、いわゆる「きのこ」は子実体と呼ばれる部分で、本体は地中や木の中に広がっている菌糸の集合体です。
きのこは、倒木や立ち枯れた木を分解して土に還す役割を持っています。また、生きた木と共生し、木ときのこが互いに栄養を補い合ったり、大きな木から幼い木へ栄養が渡ることを助けたりしていることも知りました。
小さく可愛らしい存在だと思っていたきのこが、実は森全体の循環や成長を支えている。そのことを知り、見る目が大きく変わりました。
これまで撮影してきた「森の妖精」としての世界に、森の生態系を支える生物としての視点を重ねることで、今回の「林床の鼓動」というテーマが生まれました。

制作の中で、最も苦労したことは何ですか。 |
1番苦労したのは、2つの異なる世界を、どのように1つの写真展としてまとめるかということです。
1つは、きのこを森の妖精のように捉えた、おとぎ話のような世界です。もう1つは、分解者や共生者として森を支える、生物学的な世界です。
どちらか一方だけではなく、2つを重ね合わせて表現したいと考えました。
そのため、どの作品を選び、どの順番で並べ、全体としてどのような物語を作るかについて、最後まで悩みました。今回の制作では、テーマを再構築し、それを展示として見える形にすることが最も難しい作業でした。

撮影機材や撮影方法について教えてください。 |
この作品は2014年から2025年まで、約12年間にわたって撮影していますので、自分自身のカメラ遍歴も反映されています。
初期はD610やD810などのFマウントのカメラに、AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G EDやAF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-EDのマクロレンズを組み合わせて撮影していました。
その頃は、きのこ自体の形や表情を大切にしながら、できるだけ幻想的でファンタジックに見せることを意識していました。
その後、Z6、Z7、Z8などのミラーレスカメラを使用するようになりました。きのこの生態や森との関係を意識するようになってからは、NIKKOR Z 14-30mm f/4 SやNIKKOR Z 24-70mm f/4 Sなどの広角、標準ズームレンズも多く使うようになりました。
きのこだけを大きく写すのではなく、周囲の木々や林床の環境を一緒に写すことで、森の中でどのように生きているのかを表現したいと考えたためです。
絞りはF8からF16を基本にし、必要に応じてF22まで絞り込むこともあります。

プリントについても、特にこだわった点があるそうですね。 |
今回は、ピクトリコの「局紙バライタ」という用紙を使用し、顔料インクでプリントしています。
きのこが生えている森には、独特の湿度や、生々しい空気感があります。きのこの表面にも、しっとりとした質感があります。
その湿度感や生命感を、できるだけプリントから感じてもらいたいと思い、用紙を選びました。
写真展では画面上で見る写真とは違い、用紙の質感や黒の深さ、光の反射なども作品の印象に大きく影響します。今回の作品には、局紙バライタが合っていると考えました。

山之内さんが写真を始めたきっかけを教えてください。 |
写真は高校時代から好きでした。
30代の頃には山岳写真に熱中していましたが、その後は仕事や家庭の事情もあり、長い間、写真活動から離れていました。
会社員としての生活の先が見えてきた15年ほど前に、退職後の人生をどのように過ごすかを考えました。
そのとき、「退職後は写真とともに生きていこう」と決め、風景写真を中心に本格的な活動を再開しました。

活動再開後は、写真コンテストにも挑戦されたそうですね。 |
約20年間のブランクがありましたので、まずは写真の力を取り戻すための修業が必要だと考えました。
そこで、写真雑誌の月例コンテストに7年間挑戦しました。継続して応募する中で、写真の選び方や1枚の完成度について、多くのことを学びました。
目標としていた年度賞を受賞できたことを1つの区切りとして、約8年前からは、活動の中心をコンテストから写真展へと移しました。

コンテストと写真展では、どのような違いがありますか。 |
コンテストでは、基本的には一枚の写真の完成度が問われます。
もちろん一枚の作品を突き詰めていくことには、大きな魅力があります。
一方、写真展では、1枚1枚の完成度だけではなく、テーマを設定し、複数の作品を選び、順番を考え、展示全体で1つの世界を表現する必要があります。
作品を撮ることに加えて、構成を考え、物語を作るという「プラスアルファの楽しみ」があります。
私にとっては、その過程がとても面白く、現在はテーマを決めて個展を開催することを活動の中心にしています。

今回、ニッコールクラブ会員展の審査に合格したときは、どのようなお気持ちでしたか。 |
本当に嬉しかったです。
現在、「フォトコン」誌で、個展開催を目指して作品を制作する過程についての連載記事を書いています。
その連載期間中に、自分自身の個展を実現したいという目標がありました。そのため、今回の審査には、どうしても合格したいというプレッシャーもありました。
合格の知らせをいただいたときは、目標を達成できたという安心感と、大きな喜びがありました。

周囲の写真仲間からは、どのような反応がありましたか。 |
写真仲間の皆さんには、とても喜んでいただきました。
私は現在、風景写真のクラブに所属していますが、仲間からは「THE GALLERYで3回も写真展を開催している人は、なかなかいない」と言っていただきました。
自分では回数を特別意識していませんでしたが、周囲の方からそのように言われ、改めて恵まれた機会をいただいていると感じました。

作品をまとめるにあたり、専門家からのアドバイスはありましたか。 |
きのこが好きなことでも知られている写真評論家に、作品を見ていただく機会がありました。
「1枚1枚の写真は良い。だからこそ、どのように構成するかが重要になる。最後まで悩み抜いて構成してほしい」というアドバイスをいただきました。
この言葉は、今回の展示をまとめるうえで、とても大きな支えになりました。
また、これまでにニッコールクラブの熊切大輔先生や三好和義先生からも、作品の選び方や写真同士の組み合わせ方について指導していただきました。
そうした経験の積み重ねが、今回の作品構成にも生かされていると思います。

今後の目標を教えてください。 |
これからも、テーマを決めて作品を撮り、個展として発表する活動を続けていきたいと考えています。
今回の写真展が終わりましたら、現在温めている次のテーマに本格的に取り組む予定です。
1つのテーマを時間をかけて撮り続け、作品を構成し、写真展として発表する。そのスタイルを今後も大切にしていきたいと思っています。

写真展の開催を目指している方へ、メッセージをお願いします。 |
写真展には、さまざまな楽しみがあります。
まず、テーマを持って撮影する楽しみがあります。そして撮りためた作品の中から写真を選び、順番を考え、展示全体で自分の考えを表現する楽しみがあります。
さらに、会場で来場者の方と直接お話しし、作品について感想を伺えることも、写真展ならではの大きな魅力です。
1人で作品をまとめることが難しい場合は、ニッコールクラブの「マンツーマン写真講評会」のような機会を活用すると、写真展開催へのハードルを下げることができると思います。
特にニッコールクラブの会員には、会員展審査を通じてTHE GALLERYで個展を開催できる、非常に恵まれた制度があります。
ぜひその制度を活用し、自分自身のテーマを写真展という形にしていただきたいと思います。
