
小林先生の写真ノート <Vol.20>
新たなるベツモノ
前回、単行本の準備を現在していること、そこでフィルムで撮影した写真を使うことなどについて触れたが、その続きを書いてみたい。
以前ほどではないが、いまでもフィルムカメラとフィルムで撮影をしている。その数は全盛期に比べるとかなり限られたものだが…。
実は現像したネガをデジタル化して印刷物やWeb上で発表する機会は意外なほどある。過去の写真を使いたいという依頼も思いがけず多い。そんなこともあって最近では、特にネガカラーに限っていえば、フィルムで撮影している段階から最終的な仕上がりはデジタル化するという感覚で撮っている。
10数年前に自分の事務所でネガカラーの印画紙への自家現像(プリント)をやめた。その後、すぐにフレックスタイトというデジタル化するための大型スキャナを買ったのだが(中古で80万円した)、数年前に使えなくなった。
いろいろ調べたり、人に聞いたりしたのだが、どうやら再び使うのがかなり難しいらしい。具体的には、壊れたのではなく内蔵されているライトが切れただけなのだが、海外のサイトをみたりしても、どうしてもそのライトが手に入らない。意外な落とし穴だった。その機械はネガカラーらしさをきれいにデータ化してくれ、とても気に入っていただけにとても残念だ。
ただ、いずれ、どこかの段階で使えなくなるだろうとは考えていた。スキャナを動かすためのソフトが古いパソコンにしか対応しなくなっていて、わざわざ古いパソコンを大事に使い続けているという状態だったからだ。過去の遺産を使い続けている感覚があった。
その後は、デジタルカメラとマイクロレンズの組み合わせで複写するという単純な方法に切り替えた。デジタルカメラの画素数が以前に比べて増えたことも味方した。複写なので、スキャンより時間短縮できていいのだが、当然ながら、そのあとネガからポジに変換しなければならない。
Photoshopなどの画像加工ソフトでその加工をするのだが、思いのほかハードルが高かった。安定した色が出ないのだ。ネガカラーらしい、あの柔らかで少し彩度が低い「感じ」を出すのにかなり苦労した。これまた人に聞いたり、雑誌、Web記事などを参考にしたりして、段々と理想に近づき、いまではかなりコントロールできるようになってきた。
役立ったソフトは「Negative Lab」というもの。英語版しかなく、さらにAdobeのLightroom Classicに入っていないと使えないはずだが、最近はこれをよく使っている。最初のおおまかな色合わせはこれで行う。ざっくりと求めている色が出る。そのあとの細かな調整はPhotoshop上でする。実在した過去のフィルムの銘柄が並んでいて、その色味を選ぶこともできる(ただ、少し微妙な気はする)。
モノクロの場合は単純だ。ネガを反転して、トーンカーブを整える程度でおおよそ、求めているイメージが得られるが、今回はすべてプロラボにお願いした。自分でするより階調の描写がなめらかだった。おそらく複写ではなく、スキャナで行っているから、という理由によるのだと思う。
さらに気がついたことがある。使用する多くのカットはかつて暗室に入って、バライタ印画紙に自分でもプリントしたことがあるのだが、同じくそれよりも階調が見事にでている点だ。
フィルムとデジタルはベツモノという理解でいたが、フィルムをスキャンした写真は新たなベツモノという意識を持った。頭の中がさらにこんがらがってくる。(小林紀晴)
