
小林先生の写真ノート <Vol.19>
良いアドバイスの見極め方は?
11月末くらいに単行本を1冊出版することになった。現在、その準備を進めている。2023年の春から「デジタルカメラマガジン(株式会社インプレス)」という写真雑誌で「写真の時間」という連載をやらせてもらっているのだが、すでに30回近く続いているもので、それをまとめることになったのだ。担当編集者から毎回お題がでて、それに答えていくというスタイルだ。
例えば、過去にこんなお題があった。
「なぜ、写真を撮るのですか?」
「撮りたいものが見つかりません」
「なかなか人に評価されません」
「スランプに陥ってしまいました」
「タイトルが思い浮かびません」
「審査では何を見ていますか」
「なかなか人に評価されません」
編集者は30代の男性で、写真専門学校を卒業したあと、編集者になった経歴を持つ。だから撮影する側の気持ちが体験からわかるのだと思う。さらに雑誌編集をするなかで多くの写真愛好家、さらにはその作品と接する機会が多くあるという。その方々から直接、「素朴な疑問」を投げかけられることがあり、それが私への質問となって投げかけられる。
「なぜ、写真を撮るのですか?」
いきなり問われても、即答できない。だから私は原稿を書くという行為(机の前に長く座る)により、自分なりに答えを導き出す。
「撮りたいものが見つかりません」
撮りたいものが見つからなければ撮らなくてもいいのでは?と単純に思ったりもするが、何か撮りたい、でも何を撮ったらいいのかわからない……確かにありそうだ。そんな姿が頭に浮かぶ。
新しく買ったばかりのカメラを手にすれば、おのずと気持ちは高まる。その勢いでいざ、撮影にでかけてみても、はて?自分はここで何にカメラを向けたらいいのか?そんな悩みが多いらしい。
そんな質問に毎月答えていった。とても意外なことだったのだが、読者アンケートが好評のようで、単行本化することになった。
そのなかには
「良いアドバイスの見極め方は?」
というものがあった。当初、その質問の意味が把握できず、編集者に確認すると、「写真愛好家の方は、いろんなところでいろんな先生からアドバイスを受けたり、コンテストでもコメントをもらったりするのですが、先生によって言うことがまったく違うので、混乱します。どの先生のどの言葉を信じたらいいかわからなくなってしまうのです」とのことだった。
スポーツに例えればコーチが次々現れて、それぞれが違うことを言ってきたら、選手は混乱するだろうし、成績も上がらないだろう。確かに、先生によってまるで違うことは経験からよく理解できる。
私は「アドバイスが見当違いと感じたら適当に聞き流す。ただ、誰の、どのアドバイスを信じるか、選び取るか、生かすか。これもすでに作品の一部で、撮影の技術と考えるべきである」というようなことを書いた。当然ながら主観だ。選手が選ぶことになる。
単行本には40枚から50枚ほどの写真作品も載せることになった。そのために作品選びを現在している。半分はデジタルカメラで撮影したものだが、残りはフィルムカメラ(Nikon FM3A)で、2017年くらいからコロナ禍のあいだに東京をモノクロフィルムで撮ったシリーズだ。小さな展示を1度しただけで、ほとんど未発表。それを現在、ベタ焼きからセレクトしている。(次回に続く)(小林紀晴)
