写真展

ニッコールクラブ会員展 溝部 久美子「遥か北の山にて」インタビュー

会場:ニコンプラザ東京 THE GALLERY
会期:2025年7月29日(火)~2025年8月11日(月) 日曜休館
   10:30~18:30(最終日は15:00まで)

第72回ニッコールフォトコンテスト ネイチャー単写真の部 銀賞の受賞も果たした溝部 久美子さんに、個展についてインタビューをさせていただきました。

撮影を通して苦労したことをお聞かせください。

今回のメインテーマは「雪山の風景」であり、特に北海道北部の利尻島での撮影を中心に行われました。利尻島は島全体に山がそびえており、風向きにより天候が非常に不安定になるため、晴天のタイミングを見極めて撮影する必要がありました。
気象予報が不正確で、利尻島に限定された天気予報も存在せず、フェリーが欠航することも多く、山に入るまでに1週間を要することもあります。特に冬場は月に数日しか晴天がなく、その数少ない機会を狙って現地に入ることが大変困難でした。

厳しい気候条件での撮影環境はどんなものだったのでしょうか?

利尻の3月は真冬で、気温は-20℃近くまで下がります。1週間に1度あるかないかの晴天を狙って現地入りするものの、実際に撮影できるのは1日あるかどうかという厳しい状況です。
また、撮影時間に合わせて深夜から山に登ることもあり、撮影地に辿り着くまでの体力的負担も大きくなります。山に入る際はすべての装備(テント・食料・防寒具など)を背負い、登山者がほとんどいない中での単独行動になるため、安全には細心の注意を払って行動しました。
高山植物(特に利尻ヒナゲシなどの希少種)を撮影するには、標高の高い8合目付近まで登る必要があります。夏は山頂まで登るので、片道6時間以上、往復で11時間以上かかる場合もあり、夜中の2時に登山を開始することもあります。

撮影にはどのくらいの時間を費やしたのですか?

撮影地の利尻島、隣にある礼文島を合わせ、4年間の間に13回ほど訪れ、合計114日滞在しました。しかし、それでも撮りきれていないです。まだ撮りたい角度、場所、イメージしている山の姿があるので、しばらく満足するまでは島にいきたいです。

撮影機材について教えてください。

Z8をメインに撮影しました。使い勝手がよく、また氷点下の中でのバッテリーの持ちが良かったです。島に持っていくので撮影の途中で壊れてしまったら困ります。Z8は厳しい寒さの中でも安心して使用でき、信頼しています。
レンズは主にNIKKOR Z 14-24mm f/2.8 SとNIKKOR Z 24-120mm f/4 Sを使用し、状況に応じてNIKKOR Z 20mm f/1.8 S、NIIKOR Z 100-400mm f/4-5.6 Sの望遠レンズも使用します。極力荷物を減らす工夫をしつつ、撮影の目的に応じて機材を選び抜いています。

現像やプリントをするうえでこだわった点はなんですか?

自分が景色を見たときに感動した気持ちなど伝えられるように、なるべく見たものに近い色味になるレタッチを心がけました。彩度を下げておしゃれにするなどはしないようにしたいんですけれども、思い出が乗っかるので、少し派手になってしまうこともありました(笑)。

撮影を始めたきっかけを教えてください。

もともとは旅行好きで、30か国以上を訪れていたことからです。写真を撮らないと感動した記憶などを忘れてしまうので、記録として撮り続けていたことが今につながっていると思います。見たことのないものを見たい、という探求心から登山につながりました。

写真の勉強はどうされていたのですか?

写真への取り組みは基本的に独学です。最初のうちはピントがずれていたりする記録写真ばかりだったのですが、撮っているうちに、よりよく綺麗に残したいと思うようになりました。SNSやYouTubeなどを通して勉強し、よりきれいに撮れると楽しいです。

写真展にチャレンジする方にメッセージがあれば教えてください。

自分で撮影してきた写真をまとめてみることは、凄く意義のある事だと思います。
一度作品をまとめることで、欠けているピースが見えてきます。今回の山岳写真を例にすると、秋の写真が足りない、ここからの角度の写真が足りないなどです。またこの作業をすることで、自分の生き方や、なぜ撮影をするのか、自分自身を俯瞰するきっかけにもなりました。

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2 件の返信 (新着順)
片岸勇一
2025/09/06 12:37

雪を抱く険しい頂きに鳥が舞う写真に錯覚か?と思い海からそそり立つ独立峰の利尻岳で同種の山岳写真は見たことがありませんので大変なインパクトを受けました。富士山と同じく独立峰で遮るものが無くまた標高がダイレクトに標高差と成りますため風と標高差で大変険しい山ですので、登山には細心の注意を払って良い作品を増やしてください。

ヒデ
2025/09/05 21:01

撮影地の近くで生まれ育った者です。ギャラリーで写真展を拝見いたしましたが、あの厳しい冬の中、撮影された写真かと思うと、本当にご苦労があったかと思います。力強さと繊細さが感じられる写真でした。是非、また拝見したいと思います。