
小林先生の写真ノート <Vol.18>
タイでの映画上映
数日前までタイの東北地方の小さな町ウドーンタニ、そしてチェンマイとふたつの町を訪ねた。撮影ではなく、映画上映と簡単な講演、そして撮影のワークショップのためだ。撮影以外の目的で海外へ行くことは珍しい。
映画というのは私が監督・製作して2023年に劇場公開された『トオイと正人』というもの。写真家・瀬戸正人さんが書いた自伝が原作だ。タイでのロケは主に2017年に行った。使用したカメラはNikonのD750、 D810など。

国立チェンマイ大学に日本研究センターというものがあり、そこからの招きによる。映画の舞台であるウドーンタニのラーチャパット大学にも協力いただき、そこでも映画上映、講演などをしてきた。ラーチャパット大学、チェンマイ大学ともに主な鑑賞者は学生たちで、ほかに研究者、さらに地域の人たちも参加してくれていた。
日本映画でタイの東北を扱ったものは珍しいらしく、注目してくれたのだ。日本の国際交流基金の支援もあった。さまざまな方に尽力いただき、1年以上の準備を要して開催された。

2017年のタイでの映画ロケの際に、チェンマイ在住で現日本研究センターの所長にタイ語の通訳をお願いしたのが、そもそもの縁だ。当時はまだ所長ではなかった。
ウドーンタニを訪れるのは2回目、2017年のロケ以来だった。
上映、講演のあと、地元の博物館の方が地域に残された古い写真を集めた郷土史誌を私に見せてくれた。そのなかにプミポン国王が1955年にウドーンタニを訪れた際に撮られた写真が載っていた。私の映画は国王に関連する「幻の写真」を探すのが大きなテーマだけに、とても驚いた。この1枚に出会えたことは大きな収穫だった。
果たしてタイの人たちが私の映画をどんなふうに観てくれるのか?理解してもらえるのだろうか?という不安があった。コロナ禍にタイの映画祭に応募して、新人賞をいただいたことはあったが、オンライン上の授賞式のようなものがあっただけで具体的に感想を聞いたことはなかった。だから以前から気になっていた。
チェンマイですべての催しが終了したところで、関係者と夕食を一緒に食べる機会があった。そこでチェンマイ大学建築学科の先生から感想を直接聞くことができた。
映画のなかで主人公が幼い頃の記憶を思い出す場面があるのだが、主人公の心のうちがよく理解できた、編集の仕方よかったと言っていただいた。そこは私がもっとも時間をかけて編集した部分だ。60秒ほどの尺だが、まるまる3日を要した。最初にその場面についての感想を聞くことができたのは嬉しかった。最高に美味しいビールとなった。(小林紀晴)
