会場 ニコンプラザ東京 THE GALLERY
会期 2026年9月2日(水)~2026年9月14日(月) 日曜休館
10:30~18:30(最終日は15:00まで)

今回の作品を撮影するうえで、特に苦労されたことは何ですか? |
1番難しいのは、やはり猫は自分の思い通りには動いてくれないということです。自然な姿を撮るためには、まず猫との関係をつくらなければなりません。そのため、同じ場所へ何度も通い続けました。望遠レンズを使って遠くから撮影する方法もありますが、私は猫との距離を縮めて、近くから撮ることを大切にしていました。
今回展示する作品は、ある場所に約3年間通い続けて撮影したものです。猫たちに自分の存在を覚えてもらい、少しずつ信頼関係を築いていきました。餌をあげる方は別にいらっしゃったので、その方の邪魔にならないよう配慮しながら、私は「モデル料」という気持ちで、時々おやつを少しあげる程度にしていました。

今回の写真展の作品は、すべてフィルムで撮影されたそうですね。 |
はい。今回展示する作品は、すべてフィルムで撮影したものです。猫を撮り続けて約20年になりますが、今回の作品を撮影した当時は、まだフィルムが中心でした。その後、フィルムをデジタル化して作品として仕上げています。
私はもともとモノクロフィルムを自分で現像し、暗室でプリントしていました。その経験があるので、現在でもモノクロの「トーン」や「階調」にはとてもこだわっています。特に薄暗い場所で絞りを開けて撮影したときの、猫の毛並みや光から影へとつながっていく階調を、プリントでどう再現するかを大切にしています。

撮影機材についても、かなりこだわりがあるのでしょうか? |
フィルム時代によく使っていたのが、Nikon F4Sです。私はマニュアルフォーカスで撮影することが多いのですが、F4Sはファインダーでピントの山が非常につかみやすく、とても気に入っていました。
レンズは50mmの単焦点を中心に使い、Carl Zeiss Planar 50mm F1.4などを使用していました。ほかにも25mmや21mmのDistagonなどを使っています。50mmで猫を大きく撮ろうと思えば、かなり近づかなければなりません。だからこそ、猫との信頼関係がとても重要でした。

現在はどのような機材で撮影されていますか? |
現在はデジタルに移行し、Nikon ZfやZ6などを使用しています。ただし、デジタルになっても撮影方法そのものはあまり変わっていません。今でもマニュアルフォーカスのレンズを使うことが多く、AFレンズはNIKKOR Z 40mm f/2(SE)を1本持っている程度です。
ライカをはじめとしたドイツ製のオールドレンズなどを、マウントアダプターを介して使うこともあります。
最新のZマウントレンズは非常によく写りますが、自分の作品にはオールドレンズが持っている、少し柔らかさのある描写や独特のトーンが合っていると感じています。

今回の作品では、プリントにもこだわられたのでしょうか? |
かなりこだわりました。今回使用しているのは、マット系のファインアート紙です。猫の毛並みやモノクロの質感を表現するために、ピクトリコの「ファインアートスムーズ」を選びました。
プリンターはエプソンの顔料プリンターPX-1Vを使用しています。さまざまな組み合わせを試しながら、自分が求めるモノクロ表現に一番合う用紙とプリンターを選びました。
写真は撮影した時点で終わりではなく、最終的にプリントとしてどのように見せるかまでが作品づくりだと思っています。

デジタル撮影では、どのようにモノクロ作品を仕上げていますか? |
基本的にはRAWで、少しアンダー気味に撮影しています。その後、NX Studioで「ディープトーンモノクローム」やカラーフィルター効果などを使いながら、自分の求める階調に近づけていきます。そこからTIFFに書き出して、最後はPhotoshopで細かな調整を行います。
フィルム時代にはKodak T-MAXを自家現像していましたし、カラー現像処理ができるモノクロフィルムBW400CNなども使っていました。
フィルムだから良い、デジタルだから良いということではなく、デジタルになっても私自身の撮り方や作品に対する考え方は基本的に変わっていません。

THE GALLERYへ応募するきっかけは何だったのでしょうか? |
以前から、長年撮影してきたフィルム作品のデジタル化を進めていて、いつか1つのまとまった作品として発表したいという思いがありました。大きなきっかけになったのが、ニッコールクラブのイベントで参加した「マンツーマン写真講評会」です。
そのときに作品を約50枚持っていき、熊切大輔先生に見ていただきました。その講評を受けたことで、作品のセレクトや写真展の構成について、自分の考え方が大きく変わりました。

熊切先生からは、どのようなアドバイスがあったのですか? |
特に印象に残っているのが、1枚の強いカラー作品についての指摘です。
その写真は自分でも気に入っていたのですが、熊切先生から「この写真は非常に強い。これを入れるのであれば、写真展全体をこの方向に合わせる必要がある」という趣旨のアドバイスをいただきました。
自分では良い写真だから入れたいと思っていましたが、1枚の写真が強すぎることで、写真展全体のテーマや流れを変えてしまうことがあるのだと気づかされました。
さらに、50枚ほどの中から先生が13枚を選んで並べてくださったんです。すると、そこに写真の流れやストーリーが見えてきました。「写真展とは、こうやって構成するものなのか」と、とても衝撃を受けました。

その13枚を中心に応募作品をつくられたのでしょうか? |
最初はそうしようと思いました。ただ、そのまま先生が選んだ作品を出したのでは、自分なりの「回答」にはならないと思ったんです。
そこで、まだデジタル化していなかった過去のフィルムまで含め、もう一度すべての作品を見直しました。その結果、熊切先生が見ていない作品を新たに10枚ほど加え、自分自身で改めて構成をつくり直して応募しました。それが今回の合格につながったのではないかと思っています。

THE GALLERYには初めての応募だったのですか? |
はい、初めてです。まさか1度で合格するとは思っていなかったので、結果を聞いたときは「受かっちゃった、どうしよう」というのが正直な気持ちでした(笑)。
クラブの仲間や役員の皆さんにも祝福していただきました。ちょうどニッコールクラブの支部展などとも時期が重なっていたため大変な部分もありましたが、こうして写真展を開催できることをとても嬉しく思っています。

そもそも写真を始められたきっかけを教えてください。 |
父が写真をやっていたことがきっかけです。父が持っていたカメラを借りて、高校の写真部に入ったのが本格的なスタートでした。
昔から、人と同じものを撮るよりも、「他の人があまり撮らないものを撮りたい」という気持ちがありました。
猫を撮る場合でも、単に「かわいい猫」を撮りたいわけではありません。私の中には「野良猫は野良猫らしく撮りたい」という明確な考えがあります。その猫が生きている環境や空気感まで含めて表現したいと思っています。

これから取り組んでみたいテーマはありますか? |
まだ明確なテーマとして決まっているわけではありませんが、最近は道端に落ちている空き缶や捨てられた物、落とし物や忘れ物などが気になっています。普通なら見過ごしてしまうようなものでも、その周囲の風景や、そこを行き交う人たちと組み合わせることで、何か表現できるのではないかと思っています。
私は1枚の写真だけで完結させるよりも、複数の写真を「群」として見せることに興味があります。30枚、40枚という写真を組み合わせ、ひとつのテーマを深く掘り下げていく。これからも、そういう作品づくりを続けていきたいですね。

これから写真展を目指す方へ、アドバイスをお願いします。 |
ぜひ1度、写真展を経験してほしいと思います。私は以前、亡くなった妻をテーマに自費で個展を開催したことがあります。そのとき、多くの方から大きな反響をいただきました。
その経験から、1枚だけではなく、多数の写真によってひとつのテーマや思いを伝えることの力を実感しました。
もちろん、フォトコンテストで1枚の完成度を追求することも写真の楽しみ方のひとつです。しかし、写真展には1枚の写真ではできない表現があります。1度経験すると、またやりたくなる。それくらい写真展には大きな魅力があると思います。
そしてもうひとつ、自分だけで作品を選ぶのではなく、ぜひ専門家に写真を見てもらってください。自分では「これが良い」と思っていても、客観的に見ると違う場合があります。時には「ぐっさりくる」ような厳しい指摘もありますが、そうした講評こそが、自分の作品をもう一段階成長させてくれると思います。